へえ~ お客さんの奥方は そんなにお綺麗なんで・・・
はい? 何だか信用してない目つきだな ・・・ ですって
あはっ! アッシは 生まれつき こんな目つきでしてね
え? 携帯の待ち受け画面に 奥方の写真をですか?
ずいぶんと 愛妻家でいらっしゃる!
論より証拠に アッシに見てみろと ・・・ はいはい、
では チョット拝見させていただきましょうかね ・・・・・
おお~! これはこれは ほんとにベッピンさんですな
えっ? 僕とは ずいぶん不釣合いだって 心の中で
思っただろうって ・・・ そんな 滅相も無い ・・・
僕みたいな見かけの悪い男が 何故あんな美女と
結婚できたのかって 周りの者は皆 陰で そう噂して
いるから もう 慣れっこになってるって ・・・
お客さん、アッシは商売柄 人を見る目だけには
自信があるんですよ ・・・ お客さんが とても誠実な
お人柄だってこともね ・・・ 奥方も そういうところに
惹かれなすったんじゃないですかい
結婚するなら 彼女しかいないって 猛アタックを ・・・
あはっ! お客さんも なかなか やりますな~
で、交際中は ひたすら彼女中心主義 ・・・ なるほど~~
食べ物の好みも全部 彼女に合わせた ・・・ なるほどねえ
「ワタシ 卵焼きは 甘いのが好き!アナタは?」 って
聞かれて つい「僕もモチロン 甘いのが好き!」 って
答えちまった・・・ そりゃ 結婚できるかどうかの瀬戸際
だったら アッシだって なんでも話を合わせちまうな~(笑)
でもね~ お客さん、釣った魚にエサはやらないって
いうじゃありませんか ・・・ 結婚されて どのくらいに?
十五年ですかい ・・・ だったら ソロソロ このへんで
「俺はホントは 塩味の卵焼きがスキなんだ~!」 って
奥方にカミングアウト もとい 告白しなすってもいいんじゃ
ないですかい?
え? そんなことは しないって? そりゃまた何故ですかい?
毎朝台所で 僕のために甘い卵焼きを作って 弁当箱
に詰めてくれる彼女の姿を眺めていられるだけで
充分幸せだから これからも 五年十年と 彼女好みの
卵焼き入りの弁当を持って 勤め先に出かけるって
・・・ そういうことですかい?
そりゃあ ・・・ どうも ごちそうさまなこって ・・・(笑)
独り身のアッシには なんとも羨ましいお話で ・・・
はい? ヨサブローさんには わかってもらえるかも
しれないって・・・ 何でしょう?
僕が どうしても彼女と結婚したかった理由は
彼女が ただ美人だったからというわけじゃなく ・・・
聡明で 温厚な彼女の内面の美しさに惹かれたから
ですって ・・・ そういうことですかい ・・・
モチロン わかっていますとも!
お客さんが 一生の伴侶を選ばれる時に 外見の
美しさだけにとらわれるようなお方じゃないってこと
どうか 奥方と いつまでも お幸せに ・・・
また 塩味の卵焼きを召し上がりたくなりやしたら
いつでも ご来店くださいやし ・・・
あ、たまには奥方も ぜひご一緒に ・・・ そんときゃ
卵焼きの味は めいっぱい甘くいたしやすから ・・・
『夫婦(めおと)味 優しい嘘も 調味料』(ヨサブロー 川柳)